異形二話

「うわぁぁっ、お父さん、お父さん、お父さん」
女の悲鳴に男が駆けつけた。男の税理士事務所兼自宅の一室での出来事だった。
女はぶるぶると震え、部屋の片隅にうずくまっていた。
「大丈夫、もう大丈夫」
男は女を抱き締めた。
「お父さん、お父さん、お父さん、どこ」
「ここにいる、ここにいるよ」
女の荒い息が少しずつ収まり、震えが止まる。泣き濡れた眼差しで男を見上げた。

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異形三話

「お父さん、もう寝た」
そっと呟く。
枕を抱え、幸はそうろと、男の部屋の襖を開けた。もう一緒の部屋に寝るのは卒業しなさいと男は幸に隣りの部屋をあてがったのだった。
男は心配していた。幸は既に呪術についても、武術についても男の能力を超えていた。
男はそれを素直に喜んだのだが、一つの問題が残ったのだ。幸は変わらず、極度に父親への依存を残していた。慕ってくれる娘はとても可愛い、だが、考えるの は、あの魔物は幸を拘束し、自らの道具として扱った。自分自身はどうなのだ、幸を独立し自我を確立させた一人の人間として育てるべきではないか。今のまま では、俺はあの魔物と対して変わらぬ扱いを幸に為しているのではないか。

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異形四話

闇の中、男は頭を抱え悩んでいた。
一体なんてことを、俺はしたのか。
それは旅行の夜だった、自分の前に幸を座らせ、その幸の浴衣を脱がしてしまった、滑らかな肌、その時の甘い感触が指に残る、もちろん、父親としてそれは許 される行為ではない、ましてや、幸がいてくれないと生きていけないなどと、幸の心を縛ってしまうようなことを言ってしまった。そうだ、もしも、幸に異変が 起こらなければ、間違いなく、幸を最後まで・・・。
心が不安定だった、それは確かだ、しかし、それは醜い言い訳だ。
幸はどれほど傷ついただろう、幻滅したろう。

「おーい、お父さん、一緒に晩御飯作ろぉ」
襖が開き、幸が男の部屋を覗き込んだ。

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異形五話

ふぅっっ、深呼吸をする。
笑顔、笑顔、口元、そう、頬の上辺りを引き上げるようにして、そうすれば極上の笑みになる。
さぁ、行くぞ。
商店街の入り口、幸はぐっと握り拳を作ると商店街の中へと向かった。

「ええっ、スーパーの方が良いよ、買いやすいもの」
「だめ、幸はね、一人ででも色んな人と会ってお喋りしたり、自分の意志を伝えたり、そういう訓練しなきゃね、いつまでも、お父さんの後に隠れて買い物するわけにもいかないでしょう」
「でも、商店街っていちいち声を掛けなきゃならないし、スーパーなら何も喋らずに買い物ができるし」
「つまりはお喋りしなさいってこと、いいね」

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異形六話

この温泉街の中でも一番の高級ホテル。廊下には、プレートを掲げた重厚な扉が並ぶ。ふと、幸は、何か用事を済ませた後だろう、少し先を歩く仲居に気づき、音をさせず走り寄ると、後ろから抱き締めた。
「あはは、だーれ、だ」
「お、お客様、困ります」
低い声で幸が囁いた。
「なんだよ、寂しいなぁ。あたしの声、忘れたのかよ」
「うっ、うわぁあ」
仲居は腰を抜かし、尻餅をついてしまった。幸は仲居の前に回り込み、にっと笑った。
「やっぱり、あの時の瞳さんだ。元気にしてた」
「は、はい。おかげさまで・・・」
幸もぺたんと廊下に座ると、目を逸らそうとする瞳をじっと見つめた。

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異形七話

窓からの月明かり、瞳はそっと幸の寝顔を見つめた。
幸と瞳はこの十日間、一つの部屋に布団を二つ並べ寝ていたのだ。
明日が、ちょうど、十日目、明日の昼には幸に付き添われ自宅へと戻る予定だった。

瞳は上半身を起こし、そっと幸の顔を覗き込む。
月明かりに照らされた幸の、なんて神々しく美しい、それは人の域を遥かに越えた美だった。

「キスはやめてくれよ。あたしは父さん、一途なんだからさ」
幸は目を開けるとにっと笑った。
「ごめんなさい、起こしてしまって」
「いいさ、こんな奇麗な月を見ずに寝るのはもったいない」
窓からの月は冴え冴えと部屋の中を照らし出す、充分な明るさだった。
幸は立ち上がると、瞳に待ってなと言い残し、台所へ。そして、お盆にマグカップを二つ載せ戻ってきた。

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異形八話

「お父さん、好きな人ができたの。結婚を前提にお付き合いしていて・・・」
深刻な顔をした幸の唇から言葉がこぼれて行く。夢ではない、現実に俺の前に幸が立っている。
昼過ぎ、台所で珈琲を飲んだ後のことだ。椅子から立ち上がろうとしたところに、幸の告白。
いつの間に・・・、いや、いまはそんなことを考えている場合じゃない、俺はどう答えればいい。何か言わなきゃならない。なんて言うんだ。
まさか、こんな言葉が幸の口から出るなんて思いもしなかった。俺は、俺は・・・。
俺は幸の父親だ。そう、幸の父親なんだ。

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異形十話 最終話

花見と言っても、桜の花を愛でるというような風情はない。所狭しと屋台の並んだ先、公園を一歩入れば、満開の桜が青い空をその無数の花びらで見事に遮ってしまう。
しかし、一度、視線を落とせば、ビニールシートの青が辺り一面、賑やかな花見客が持参する小さな空にあちらこちらと埋め尽くされている、まるで、空にいるようなものだ。
男はビニールシートの端に座り、缶ビールを少しずつ飲んでいた。商店街の花見、幸がしばらく前から、週に一度、魚弦で1時間ほどだが、手伝うようになり、そのよしみで男も商店街の花見に参加したのだった。
「先生が来てくれるなんてびっくりだよ」
洋品店の女店主が男の前で笑った。しばらく前に膝を痛め、折り畳みの座椅子にすわっているのだが、それが正座する男の背の高さにあい、ちょうどいい話し相手になっていた。

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異形 流堰迷子は天へと落ちていく 一話

短編幻想小説『異形』の続編です

月曜日 18 7月 2011 at 12:42 pm.

瀟洒なホテルのラウンジ、碧のドレスを見に纏った女が一人、カウンターにいた。深い海の色をしたカクテルを前に、物憂げに頬杖をついている。
若い男が一人、何げない仕草で女の隣に座った。
「君の瞳はどうして虚ろなんだい」
女はふっと顔を男に向けた。
赤くひいた唇が妖艶な気配を漂わせる美しい女だった。
「好きな男が席を外している、それだけのこと」
「君みたいな素敵な女の子を独りにしておくなんて信じられないな」
女は吐息を漏らすと、男を軽く睨んだ。
「そこさ、あたしの待ち人の席なんだ。外してくれないかな」

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異形 流堰迷子は天へと落ちていく 二話

あかねの思いは

月曜日 18 7月 2011 at 2:49 pm.

「母さんにも困ったもんだなぁ」
幸は笑うと、洋品店の女主人を布団から助け起こした。
旅から帰ったことを佳奈に報告した、その時、幸は佳奈から洋品店の女主人が寝込んでいると聞き、シャッターの裏側、店の奥の寝室へ女主人を見舞いに来たのだった。
幸は女主人を布団に座らせると、頭からゆっくりとマッサージを始めた。
「母さん、ちょっと痩せたね。礼子さんに心配させちゃだめだよ」
「あの子も学校が忙しいからね、あたしのことなんざ、気にもかけちゃいないよ」
娘が二人、次女は結婚して家を出たが、長女の礼子は、未婚で、女主人と一緒に暮らしているのだった、しかし、勤めている高校が忙しく、ほとんど、家にいることができずにいた。

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異形 流堰迷子は天へと落ちていく 三話

鬼紙老とあかね

「お父さんは、あかねちゃんの父親を連れてきて。幸はちょっと遊んでくるよ」
門柱の手前に男と幸とあかねが立っていた。通りの向こうからやってくるのはあかねの父親、大きめの旅行鞄を転がしやって来る、治療が功を奏したのか、血色も良いようだ。
ただ、あかねの父親の後ろには。

「あれって、気づいていないのかなぁ」
幸が愉快で仕方ないと低く笑う。

「気づかないし、彼は先天的に影響を受けにくい人なんだよ」

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異形 流堰迷子は天へと落ちていく 四話

男、死ぬ

「幸は世界で一番幸せな女の子だと思うよ」
幸は男の膝を枕に横になる、晩秋の小春日和、お昼前。
縁台に座る男の膝に頭を預け、広がる畑を眺めた。畑の向こうに時々白い影が動く、子山羊が三匹、草をはんでいるのだ。
秋野菜、緑色が広がる収穫前の一時。
「頑張って世話をしてたからね、幸は」
「ううん、今の幸せは、幸がお父さんにひざ枕をしてもらっているっていうこと、そして、お父さんも世界で一番幸せなお父さんなのです」
「父さんもか」
「そう、可愛い娘のひざ枕ができるなんて、こんな幸せなことはないよ」
男はくすぐったそうに笑った。
「幸、父さんを幸せにしてくれてありがとう」
「どういたしまして」
幸はにひひと子供っぽく笑うと、ぱたぱたと足を振る。

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異形 雨夜閑話 一話

幸、鬼を両断する

月曜日 18 7月 2011 at 5:30 pm.

異形 雨夜閑話 一話

男は落ちつかずにいた。
幸が一週間かけて造った風呂場、いや、浴場だ。大人、五、六人はゆっくり入ることができる。男は足を伸ばし、ゆっくりと湯船につかってはいたのだが、それでも、落ちつけずにいた。それは幸との約束、一緒に風呂に入って背中の流し合いをするという約束に、わかったと答えつつも戸惑いをかくせずにいたからだった。幸との約束は必ず守る、しかし・・・。
「お父さん、入っていい」
後ろ、曇り硝子の向うから、はしゃぐ幸の声が響いた。
「どうぞ」
戸惑いながらも、男は背中越しに返事をする。

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異形 雨夜閑話 二話

幸、ごめんなさいという

月曜日 18 7月 2011 at 5:40 pm.

雨夜閑話 二話

「眠れないのか」

幸は隣りの布団に眠る啓子に声をかけた。男は自室にて、一人眠り、幸は啓子と礼子と理恵子の四人で寝ていた。

そして、啓子の母親と恵は、別の部屋に寝ていたのだった。

礼子と理恵子のニ人は、喉が乾いたのか、ニ人して台所へと部屋を出、この部屋には幸と啓子のニ人だけだった。

「啓子さん、鬼の鱗粉が見えるようになったのか」

布団の中から幸が問いかけた。

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異形 雨夜閑話 三話

三匹の猫

月曜日 18 7月 2011 at 5:55 pm.

異形雨夜閑話3話

「私、おじさんに罪を被せようとしました、大声で痴漢って叫ぼうとしました」
全員が硬直した、男や幸までも。

全員がテーブルにつき、晩御飯を食べようとした瞬間だった。倉澤は突っ立ったまま、ぼろぼろに涙を流していた。
「えっと・・・」
啓子が呟いた。
「ここは先生が倉澤さんを泣かしたということで収めればいいのではないかと」
「そう・・・、だね。お父さん、倉澤さんに謝ろう」
幸も呟く。
「ごめんね、倉澤さん。だから、もう泣かないでくれるかな・・・」
男はどうしたものかと戸惑っていた。取り合えずというのは嫌いだが謝ってこの場が収まるのならそれでいい。

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異形 雨夜閑話 四話

かぐやのなよたけの姫

月曜日 18 7月 2011 at 6:27 pm.

「先生、たーっち」
いきなり黒は男の背中を叩くと、あははっと笑って駆け出して行った。
「な、なんだ・・・」
男は居間で読んでいた書類を手から落とし呟いた。
本家への出張も終え、やっと落ち着いた次の日の朝のことだった。
「姉さん流の愛情表現ですよ」
白があかねを座らせた座椅子の横に座り、じっとあかねの手を両手で握っていた。
「実害はないので、どうぞ、よろしくお願いします」
白は笑うと、また、あかねを見つめ、その両手に力を入れる。

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異形 月の竹 眠るモノ 一話

幸、白と旅する

月曜日 18 7月 2011 at 6:31 pm.

「あさぎ姉さん、お腹減ったよ」
黒がばたばたとあさぎのいる台所にやってきた。
「もうすぐ晩御飯だよ」
「お腹が減って待てないよぉ」
「しょうがないなぁ」
あさぎが何げなく黒のお腹をとんと右手で押す。
「このお腹の柔らかさは脂肪ではありませんでしょうか。太り過ぎはだめだぞ」
「だ、大丈夫だよ。しっかり練習するよ。おもいっきり動くよ」
あさぎは笑うと、戸棚を開けてみた、御煎餅があったはずだけれど。
「あれ、ないなぁ、お煎餅」

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異形 月の竹 眠るモノ 二話


月曜日 18 7月 2011 at 6:41 pm.

朝まだき、空気がしんと静まり返っている。
男と黒は、朝の空気の中を梅林の奥深く、ゆっくりと歩いていた。男の片手には、新しいコピー用紙の束がある。

「黒、この辺でいいだろう」
男が立ち止まると、左手を上げ、手のひらを空に向ける。男の手の上に、水球が現れた、その水球はゆっくりと上昇しだし、弾けた。
「水の結界を張った。誰も近づけないようにね」
黒が驚いたように声を出した。
「先生も母さんも呪文唱えずにどうして出来るの」
「幸は説明してなかったかな」
黒が頷いた。

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異形 月の竹 眠るモノ 三話

月曜日 18 7月 2011 at 6:46 pm.

「先生、見回りに行こうよ」
黒が夕食後、男に言った。
「でも、寒いし。行くのやだなぁ」
男がくすぐったそうに笑う。
「もぉ。そんなことじゃ、町を守れないよ」
怒りだす黒が面白くて仕方ないと男が笑った。黒達三人がここに住むようになって一年が過ぎた。裏社会での術師と鬼の戦いは既に鬼の優勢となり、一般の人達には知らされていないが、術師の目を擦り抜けては鬼達が暗躍し、人々をさらってその血肉を食らっていた。ようやく、この頃になると、一般の人達も鬼を目撃することとなり、嘘か真かと戸惑いながらも、夜間の外出を控え、また、昼間でも一人で歩くことを避けるようになっていた。
男が台所を覗くと、白があさぎを手伝って洗い物をしている。幸はあかねに数学を教え、それを三毛が覗き込んでいた。
「本当にありがたいことだな」
男は小さく呟くと立ち上がった。
「よし、行くか、黒」
「うん、先生」

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異形 月の竹 眠るモノ 四話

かぐやのなよたけの姫、危機に陥るかも

月曜日 18 7月 2011 at 6:49 pm.

男は、夕刻、茶店の窓際の席に座っていた。
珈琲をテーブルに戻し、行き交う人を眺める。
街中、まだ、日差しは残り、夕食の材料だろうか、買い物帰りらしい女性が多い。
男は会計事務所の勤めからの帰り、待ち合わせにと茶店に寄ったのだった。
幸せすぎて申し訳ない、思わず、男の口から小さく言葉が漏れた。

「よう、久しぶりだな。寺で閉じ込められて以来だ」
男がゆっくりと顔を上げた。
「どちら様でしょうか。お人違いではありませんか」
男が興味無さそうに言う。

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なみゆい


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